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岐阜地方裁判所 昭和29年(行)4号 判決 1957年4月24日

原告 野村邦雄 外二名

被告 岐阜労働基準局長・大垣市 外二名

主文

別紙第二目録記載の不動産は原告野村邦雄と被告大垣市との関係において原告野村邦雄の所有なることを確認する。

被告成瀬てるゑは原告野村栄一に対し別紙第一目録記載の土地につき名古屋法務局昭和二十八年五月十五日受付第一二〇八二号をもつて訴外揖斐川木履株式会社との間になした登記原因を公売とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

被告成瀬てるゑは原告野村露子に対し別紙第一目録記載の家屋につき名古屋法務局昭和二十八年五月十五日受付第一二〇八二号をもつて訴外揖斐川木履株式会社との間になした登記原因を公売とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

被告揖斐木工株式会社は原告野村邦雄に対し別紙第二目録記載の不動産につき名古屋法務局昭和二十八年五月二十九日受付第一三六五六号をもつて訴外成瀬嘉征との間になした登記原因を公売とする所有権移転登記の抹消登記手続をせよ。

原告野村栄一、同野村露子の被告岐阜労働基準局長に対する請求及原告野村邦雄の被告大垣市に対するその余の請求は之を棄却する。

訴訟費用中原告野村露子、同野村栄一と被告岐阜労働基準局長との間に生じた分は右原告等、原告野村邦雄と被告大垣市との間に生じた分は之を二分しその一を原告野村邦雄その余を被告大垣市、原告等と被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社との間に生じた分は右被告等の各負担とする。

事実

第一、請求の趣旨並に答弁の趣旨

原告等訴訟代理人は主文第一乃至第四項同旨並に「別紙第一目録記載の土地は原告野村栄一と被告岐阜労働基準局長との関係において原告野村栄一の所有なることを確認する。同目録記載の建物は原告野村露子と被告岐阜労働基準局長との関係において原告野村露子の所有なることを確認する。」被告岐阜労働基準局長が昭和二十八年四月二十七日訴外揖斐川木履株式会社に対する労働者災害保険法に基く保険料の滞納処分として別紙第一、目録記載の土地建物に対してなした公売処分の無効なることを確認する。被告大垣市が昭和二十八年五月二十六日訴外成瀬嘉征に対する市税の滞納処分として別紙第二目録記載の不動産につきなした公売処分の無効なることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、被告岐阜労働基準局長指定代理人は「原告野村栄一同野村露子の所有権確認を求める訴を却下する。同原告等のその余の請求を棄却する。」との判決を求め、被告大垣市訴訟代理人並に被告成瀬てるゑ同揖斐木工株式会社訴訟代理人は夫々請求棄却の判決を求めた。

第二、当事者双方の主張

一、原告等訴訟代理人は請求の原因として、別紙第一目録記載の不動産は原告野村栄一、同野村露子の先代である野村ようの所有であつたが昭和二十八年八月三十一日同人死亡により同目録記載の土地は原告野村栄一に同目録記載の家屋は原告野村露子に各遺贈せられて各その所有権を取得したものであり、別紙第二目録記載の不動産は原告野村邦雄の所有である。然るに、右野村よう及原告野村邦雄不知の間に別紙第一目録記載の不動産については昭和二十八年一月十二日附で訴外揖斐川木履株式会社名義に、第二目録記載の不動産については同日附で訴外成瀬嘉征名義に所有権移転登記がなされるに至つた。そこで野村よう及原告野村邦雄は同年二月三日名古屋地方裁判所に対し夫々訴外揖斐川木履株式会社、同成瀬嘉征を相手取り所有権確認、移転登記抹消登記手続請求の訴訟を提起するに至つたが、野村ようは之に先立ち右揖斐川木履株式会社に対し第一目録記載の不動産につき譲渡質権抵当権賃借権設定その他一切の処分を禁止する旨の仮処分をなし右不動産中土地については昭和二十八年一月十九日附で、建物については同月二十二日附で夫々その旨の登記をなし、又原告野村邦雄は訴外成瀬嘉征に対し第二目録記載の不動産につき右仮処分と同趣旨の仮処分をなし右不動産中土地並一部の建物については同年一月十九日附、残余の建物については同年二月七日附夫々その旨の登記をなしたものである。然るところ被告岐阜労働基準局長は右第一目録記載の不動産が前記の如く当時野村ようの所有であつて揖斐川木履株式会社の所有ではなく且前記の如き処分禁止の仮処分があるにも拘らず之を無視して右揖斐川木履株式会社に対する労働者災害補償保険法に基く保険料(以下単に労災保険料と称する)滞納金一万四千八十九円の滞納処分として同年四月二十日名古屋法務局受附第九六七七号を以て之が差押をなし、同年四月二十七日競落代金三十万円を以て被告成瀬てるゑに競落せしめ名古屋法務局同年五月十五日受附第一二〇八二号を以て被告成瀬てるゑに所有権移転登記がなされた。又被告大垣市は、第二目録記載の不動産は前記の如く成瀬嘉征の所有ではなく原告野村邦雄の所有であり且右不動産にも前記の如く処分禁止の仮処分あるにも拘らず之を無視して成瀬嘉征に対する市税滞納金一万五千二百八十円の滞納処分として名古屋法務局同年五月二日受附第一〇八一八号を以て之が差押をなし同月二十六日競落代金六十五万円を以て被告揖斐木工株式会社に競落せしめ名古屋法務局同月二十九日受附第一三六五六号を以て被告揖斐木工株式会社に所有権移転登記がなされた。然しながら右両個の公売処分はいずれも(1)前記の如くその目的物件の所有者を誤つてなされたものであり、(2)仮に然らずとするも前記仮処分をなした裁判所である名古屋地方裁判所又は同庁所属執行吏に対し滞納処分による差押の通知がなされず、(3)仮に然らずとするも公売処分による競落代金中より滞納税額又は滞納労災保険料額を差引いた剰余金を仮処分債権者たる野村よう及原告野村邦雄に供託しなかつた違法があり、(4)仮に然らずとするも前記の如く処分禁止の仮処分を無視してなされた違法がある、(5)仮に然らずとするも滞納税額或は滞納労災保険料額は僅に一万四、五千円余なるに拘らず、之が支払に充てるため時価数百万円の価格を有する本件物件を三十万円乃至六十五万円で売却するのは違法である。而して右違法事由はいずれも重大かつ明白なる瑕疵であるから公売処分は無効というべきであり、右公売処分によつては何等の権利変動を来さないものというべきである。そこで原告野村栄一は第一目録記載の土地につき、同野村露子は同目録記載の家屋につき各被告岐阜労働基準局長との間にその所有権確認並夫々右土地建物に対する公売処分の無効確認を求め、原告野村邦雄は被告大垣市との間において第二目録記載の不動産の所有権確認並右不動産に対する公売処分の無効確認を求め、尚原告野村栄一は第一目録記載の土地につき原告野村露子は第一目録記載の家屋につき各被告成瀬てるゑに対し揖斐川木履株式会社との間になされた移転登記の抹消登記手続を求め、原告野村邦雄は第二目録記載の不動産につき被告揖斐木工株式会社に対し成瀬嘉征との間になした所有権移転登記の抹消登記手続を求めるものであると述べた。

二、(イ)被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社訴訟代理人は答弁として、原告等主張事実中第一、第二目録記載の不動産につき夫々原告主張の如く揖斐川木履株式会社、成瀬嘉征に対し所有権移転登記がなされたこと、野村よう及原告野村邦雄がその主張の如く揖斐川木履株式会社及成瀬嘉征等に対しその主張の如き訴訟を名古屋地方裁判所に提起したこと、野村よう及原告野村邦雄が揖斐川木履株式会社及成瀬嘉征等に対しその主張の如き仮処分をなしたこと、被告岐阜労働基準局長及被告大垣市が夫々原告等主張の如く滞納処分をなし、第一目録記載の不動産につき被告成瀬てるゑを競落人として、第二目録記載の不動産につき被告揖斐木工株式会社を競落人として夫々原告等主張の如く移転登記をなしたこと、第一目録記載の不動産が元野村ようの所有であつたことは之を認めるが、その余の事実は之を争う。殊に、原告等がその主張の如く本件不動産の所有者であることは争う。即ち本件不動産は右野村よう及原告野村邦雄が昭和二十七年六月十二日訴外成瀬正一に代金は百万円(後に三百五十万円増額して四百五十万円となる)とし登記は成瀬正一から請求次第なす約にて売渡したものである。従つて本訴物件の所有権は同日限り成瀬正一に移転し、同人はその後第一目録記載の不動産は揖斐川木履株式会社に転売し、第二目録記載の不動産は成瀬嘉征に贈与するに至つたが昭和二十八年一月頃中間登記を省略し、右揖斐川木履株式会社及成瀬嘉征に直接登記するに至つたものである。而も原告等は前記名古屋地方裁判所の訴訟において勝訴の判決を得ていないし勿論登記面も所有権を回復している訳でないから本件公売処分の無効確認を求める利益がない。仮に訴の利益があつたとしても前記の如く本件物件は揖斐川木履株式会社及成瀬嘉征の所有であるから本件両個の公売処分は有効である、仮に然らずとするも本件公売処分当時本件物件の登記簿上の所有名義は前記の如く揖斐川木履株式会社、成瀬嘉征の名義となつており予告登記もなく只仮処分の登記があつた丈であり、それ丈で公売処分が絶対に出来ないというものでなく又処分庁においても公売処分が出来ないのに拘らず之を知りながら敢て公売したものでもないから公売処分に客観的に明白な瑕疵があるといえない。従つて本件公売処分が右所有者を誤つてなされたとて無効となる理由がない。又本件公売処分に原告主張の如き通知又は供託を欠いたとしてもそれ丈で公売処分が無効となるべき理由がない。又本件公売処分は原告等主張の如く不当に廉価に売却されたものではない。即ち、本訴物件には多数の無断転借人或は不法占拠者が入り込んでいるため原告主張の如く高価に売却される筈がなく本件の場合はむしろ高価に売却されたものというべきであると述べた。

(ロ)被告岐阜労働基準局長指定代理人は本案前の答弁として、原告野村栄一、同野村露子が被告に対し所有権確認を求めている点については右訴は権利主体たる国を被告とすべきであり国の機関たる被告には当事者適格がないから不適法として却下さるべきものであると述べ、本案の答弁として、原告等主張事実中第一目録記載の不動産が元野村ようの所有であつたこと、同目録記載の不動産につき原告主張の如く訴外揖斐川木履株式会社に所有権移転登記手続がなされたこと、野村ようが右不動産につき原告主張の如き訴訟を提起するに至つたこと、野村ようが原告主張の如く揖斐川木履株式会社に対し右不動産につき原告主張の如き仮処分をなし、その登記をなしたること、被告が原告主張の如く揖斐川木履株式会社の労災保険料の滞納処分として公売処分をなしその主張の如く競落人たる成瀬てるゑに対し所有権移転登記ありたること、右公売処分に当り仮処分裁判所たる名古屋地方裁判所又は同庁所属執行吏にその通知をしなかつたこと、公売処分による競落代金中より滞納保険料を控除した剰余金を仮処分債権者たる野村ように供託しなかつたことは之を認めるが、その余の事実は之を争う殊に第一目録記載の不動産が原告野村栄一、同野村露子主張の如く同原告等の所有なることは争う。即ち右第一目録記載の不動産は前野村ようが原告野村邦雄と共に同原告所有の第二目録記載の不動産を合せて昭和二十七年六月頃訴外成瀬正一を介して揖斐川木履株式会社に対し代金四百万円程度で売却したものである、従つて原告野村栄一同野村露子は同原告等主張の如く野村ようより遺贈を受くべき理由なく同原告等には本件公売無効確認を求める法律上の利益がない。仮に然らずして同原告等が野村ようから遺贈を受けたとしても原告等が遺贈を受けたと主張する昭和二十八年八月三十一日にはじめて遺贈の効力を生ずる訳であるからそれ以前に完結した公売処分の効力につき同原告等は之を云々する利益を有しない。仮に然らずとするも滞納処分としての公売はその性質は私法上の売買と同一であるから原告等としては被告成瀬てるゑに対して所有権確認並公売による所有権移転登記の抹消登記手続を訴求すれば足り又公売処分の無効なることが確認せられたとしても右は被告成瀬てるゑに対する訴訟ではせいぜい有力な証拠資料となるに過ぎない。従つて原告等は最早過去の事実となつた右公売処分の無効なることの確認を求める法律上の利益がない尚原告等は右公売処分においては仮処分裁判所又は所属執行吏に対して差押の通知をなさない違法があるというが、右差押の通知をなすべきことを規定した国税徴収法施行規則第十三条の趣旨は滞納処分が裁判上の仮差押仮処分によりその執行を妨げられないために仮処分権利者に対し滞納処分の執行により蒙ることあるべき不利益を知らしめるための警告的な手続規定に過ぎないから右通知を怠つても滞納処分の効力に影響がない。又原告等は公売処分による競落代金中より滞納労災保険料を控除した残額を仮処分権利者たる野村ように供託しなかつた違法があると主張しているが、残余金を滞納者に納付する規定はあつても仮処分債権者に之を供託すべきことを定めた法令は存しない。即ち、民事訴訟法第六百三十条第三項は強制執行の場合の規定であり之を公売処分に適用することは許されないし、仮に許されたとしても仮差押の規定であつて本件の如く仮処分の場合に適用がない。又原告等は公売処分が仮処分を無視してなされたというが、右滞納処分は労働者災害補償保険法第三十一条第四項により国税徴収法第十九条の規定を適用したものであるから右滞納処分は違法ではない。けだし国税徴収法第十九条にいう仮処分とは被保全権利が金銭上の請求権は勿論のこと財産的価値ある物権的請求権に基く仮処分にも適用あること明文上明白であるのみならず、そもそも仮処分は債務者の行為により危険ならしめられんとする債権者の強制執行の保全をはかるためのものであつて国家の滞納処分の如きはその対象ではないからである。滞納処分により第三者に物の所有権が移転したときは仮処分権利者とその第三者との間に解決すれば足り海のものとも山のものともつかぬ仮処分によつて滞納処分の執行を妨げらるべき理由がない。仮に仮処分を無視してなした滞納処分が違法であるとしてもそれは当然無効となるべき筈がない。即ち、本件の場合においては被告は揖斐川木履株式会社から仮処分の記載なき登記簿を見せられ且所有者につき間違なきやを名古屋法務局に問合せた後公売処分をなしたものであつて被告が本件不動産を揖斐川木履株式会社のものと認定するのは正当であり、その間何等の過失もない。従つて公売処分を無効とすべき重大且明白な瑕疵が存しないからである。原告等は更に右滞納処分において滞納保険料に比し不当に高価な不動産を公売に付したと主張するが、本件第一目録記載の土地は更地でない上に居住者も居り右土地と同目録記載の家屋とを分離して公売することは極めて困難であり且分割公売による競落代価の低下を防ぐため右土地及家屋を一括公売に附したものでその評価額も適正でありむしろ所有者の利益を考慮したものであつて右公売処分に違法の点はない。仮に右措置に何等かの手落ちがあつたとしても公売処分の違法事由を来すことなく況や無効を来すことは到底あり得ない。従つて原告の請求に応じがたいと述べた。

(ハ)被告大垣市訴訟代理人は答弁として、原告等主張事実中第二目録記載の不動産につき原告主張の如く成瀬嘉征名義に所有権移転登記がなされたこと、被告が原告等主張の如く右成瀬嘉征に対する滞納処分として之を原告主張の如く公売処分をなしたこと、公売処分に当り仮処分裁判所たる名古屋地方裁判所又は同庁所属執行吏にその通知をしなかつたこと、競売代金中より滞納税額を差引いた残額を仮処分債権者に供託しなかつたことは之を認めるが、その余の事実は之を争う。然しながら公売処分による競落代金中より滞納税額を差引いた残額を仮処分債権者である原告野村邦雄に供託しなかつたとしても右の如く供託を命じている国税徴収法第二十八条、民事訴訟法第六百三十条第三項の規定は金銭債権又は金銭債権に換うることを得る請求に関して適用される規定であつて本件の如く仮の地位を定める仮処分には適用がない。仮に適用があるとしても右金員の供託をしなかつたという丈では公売処分の無効を来すものではない。又原告野村邦雄主張の如く被告のなした公売処分が仮処分を無視してなされたものであるとしても右滞納処分は地方税法第三百七十三条、国税徴収法第十九条を適用してなしたものであるから何等違法の点はないと述べた。

三、原告等訴訟代理人は右被告等各主張事実中被告岐阜労働基準局長の原告野村邦雄及野村ようが同被告主張の第一、第二目録記載の不動産を揖斐川木履株式会社に売却したとの主張事実は之を認めるがその余の被告等主張事実は全部之を争う。即ち、原告野村邦雄及野村ようは右の如く第一、第二目録記載の不動産を訴外揖斐川木履株式会社に売却したことがあるが被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社主張の如く成瀬正一に売却した事実はない。而して右売買代金四百五十万円は昭和二十七年十二月三十一日支払を受けると共に移転登記をなす約定であつたところその後都合により履行期は昭和二十八年一月九日に延期され当日原告野村邦雄は野村ようの代理人をも兼ねて移転登記に必要な準備を備えて訴外揖斐川木履株式会社の代理人成瀬正一に代金の支払を求めたが被告は内金六十五万円の提供をしたのみで残余の部分の支払をなさないので原告野村邦雄は右金六十五万円の受領を拒絶し且右期日に代金の支払を受けなければ契約をなしたる目的を達することが出来ないので昭和二十八年一月二十三日右契約を解除するに至つたものである。尚遺贈による所有権取得は遺言の当初に遡つて効力を生ずるものであり遺言のなされたのは昭和二十八年六月三十日であるから被告岐阜労働基準局長の主張は理由がないと述べた。

四、右に対し

(イ)被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社訴訟代理人は原告等主張事実はすべて之を争う。仮に原告等主張の如き契約解除の意思表示があつたとしても次の如き理由により無効である、即ち売買代金の内金百万円は契約と同時に借主を成瀬正一及揖斐川木履株式会社、弁済期を昭和二十七年十二月末日とする準消費貸借上の債務に更改して決済を遂げ同年七月頃増額せられた残金三百五十万円については売買物件の占有が完全に買主たる成瀬正一に移転したときに支払うこととなつて居り右土地家屋の立退問題は未だ解決していないからその弁済期は尚到来していないものである。のみならず右百万円については成瀬正一が原告等から買受けた名古屋市北区安井町の土地を移転登記がなされていないのを奇貨として他に売却したことによる損害金三十五万円を控除して六十五万円を提供したが原告野村邦雄、野村ようが之を拒絶したものである、従つていずれにせよ成瀬正一には右代金債務については不履行なく契約解除せらるべき理由がない。仮に然らずとするも本件売買契約は原告等主張の如く期日に代金の支払を受けねば契約をなしたる目的を達することが出来ないものということが出来ないから契約解除のためには催告を必要とし催告を欠く本件解除の意思表示は無効である。仮に然らずして解除が有効であるとしても契約解除による物権復帰については民法第百七十七条の適用あること明であり第一目録記載の物件については滞納処方による差押当時の登記簿上の所有者揖斐川木履株式会社から被告成瀬てるゑに、第二目録記載の物件については右差押当時の登記簿上の所有者成瀬嘉征から被告揖斐木工株式会社にいずれも契約解除後に公売処分により所有権移転しその移転登記がされていること前記の通りであるから最早右物件については被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社を所有者として取扱うべきであり原告等を所有者として取扱うべきでないと述べた。

(ロ)被告岐阜労働基準局長は原告等主張事実はすべて之を争う。殊に原告等主張の契約がその主張の如く期日に代金の支払を受けなければその目的を達することが出来ないものであることは争う。従つて契約解除をなすには催告をなすことを必要とし催告のない契約解除は無効である。仮に然らずして右解除が有効になされたとしても契約解除による物権復帰について民法第百七十七条の適用あること明であり原告等主張の契約解除後に第一目録記載の不動産につき登記簿上の所有者訴外揖斐川木履株式会社に対する本件滞納処分による差押の登記がなされているから野村ようは契約解除による物権の復帰を以て滞納処分による差押をなした被告に対抗できないものであると述べた。

(ハ)被告大垣市訴訟代理人は原告等主張事実はすべて之を争うと述べた。

五、原告等訴訟代理人は右に対し、第一、第二目録記載の不動産の滞納処分による差押当時の所有名義人が夫々被告等主張の如く揖斐川木履株式会社及成瀬嘉征となつていたこと、その後被告等主張の如く夫々被告揖斐木工株式会社及被告成瀬てるゑに移転登記せられたことは之を認める。然し乍ら本件不動産につき右の如く揖斐川木履株式会社及成瀬嘉征に登記されているのは次の如き理由により登記義務者たる原告野村邦雄、野村ようの意思に基かないものであつて右登記は無効である。即ち、原告野村邦雄及野村ようは前記売買契約に基き昭和二十八年一月九日代金支払と引換に移転登記をなすこととなつたが成瀬正一は代金の内金六十五万円を提供したのみであつたので原告野村邦雄等には移転登記の意思がなかつたところ成瀬正一は甘言を以て登記書類を騙取し之に基き登記をなしたものである。従つて右登記は当然抹消さるべきものであり従つて又被告揖斐木工株式会社及被告成瀬てるゑの登記も亦抹消せらるべきものであると述べた。

六、被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社訴訟代理人は右に対し、右原告等主張事実は之を争う。仮に原告等主張の如き事実があつたとしても売買契約は有効に存し代金は更改によつて有効に決済されて居り所有権は既に買主たる成瀬正一に移転しているのであるから成瀬正一は之を他に処分し且中間登記を省略し直ちにその者に登記を移転し得るから右登記は有効である。仮に然らずとするも昭和二十八年一月十六日成瀬正一と原告野村邦雄、野村ようとの間に成瀬正一がなした右登記を有効とすること、成瀬正一は右登記書類を大垣共立銀行に預けて第一、第二目録記載の不動産を処分しないこと、売買代金を更改した四百五十万円は昭和二十八年一月二十日に四百万円、残金五十万円は双方協議の上支払う旨の約定が成立するに至つたから右登記は有効なることに確定したものというべきであると述べた。

七、原告等訴訟代理人は右事実はすべて争うと述べた。

第三、(立証省略)

理由

第一、被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社に対する各請求について

先ず本件第一、第二目録記載の物件の所有権の帰属について判断する。第一目録記載の不動産の前所有者が野村ようであることは当事者間に争なく成立に争のない甲第九号証原告本人野村邦雄の尋問の結果によれば昭和二十七年六月十二日第二目録記載の不動産の所有者原告野村邦雄が右不動産を、第一目録記載の不動産の当時の所有者野村ようが、原告野村邦雄を代理人として右不動産を、代金四百五十万円として訴外揖斐川木履株式会社に売渡したもので被告等主張の如く成瀬正一に売渡したものでない事実が認められる。右認定に反する証人成瀬正一加納賢之助の証言は叙上証拠と対照してたやすく信用することができず、他に右認定を左右するに足る証拠がない。

而して成立に争のない甲第十二号証によれば昭和二十八年一月二十四日野村よう及原告野村邦雄が買主の代金債務不履行を理由として右売買契約を解除したことを認めることが出来る。尤も同号証はその文言によれば昭和二十七年十二月末日限り右契約が解除された旨の通告とも見られる様であるが原告本人野村邦雄の供述によれば同日以後も尚右契約の履行に関する折衝がなされていたことが認められるから同号証によつて契約が解除されたものと認めるのが相当である。そこで右解除の効力について検討してみよう。

被告等は、本件売買代金の内金百万円は契約と同時に借主を成瀬正一及揖斐川木履株式会社、弁済期を昭和二十七年十二月末日とする準消費貸借上の債務に更改して決済を遂げた旨主張し、成立に争のない甲第十号証によれば恰も被告主張のように売買代金の内金百万円が準消費貸借上の債務に更改して決済を遂げているように見えるが、翻つて原告野村邦雄の尋問の結果によると、本件売買契約に際し買主が現在支払うべき現金がないから昭和二十七年十二月三十一日迄に銀行から融資を受けて支払うと言つたため右代金の支払を確保する方法として売主が買主及成瀬正一の連帯借用証書(甲第十号証)を差入れさせたこと、及右証書に記載の担保物件が売主に現実に提供されなかつたことが認められるから右甲第十号証は売買代金の内金百万円が準消費貸借上の債務に更改して決済を遂げているとの被告の主張を認定する資料にはならない、却つて以上に挙げた証拠から本件売買代金の内金百万円の弁済期は契約に際し昭和二十七年十二月末日とする旨の合意があつたものと認めるのが相当である。被告は又、同年七月頃増額せられた残代金三百五十万円については売買物件の占有が完全に買主に移転した時に支払うこととなつており右土地家屋の立退問題は未だ解決していないからその履行期は尚到来していないと主張し、原告野村邦雄の尋問の結果によるも右土地家屋の立退問題は未だ解決していないことが認められるが、同供述及成立に争のない甲第十一号証によれば残代金三百五十万円についても買主が前認定の連帯借用証書(甲第十号証)と同趣旨の連帯借用証書(甲第十一号証)を差入れていることが認められるから、同認定と同一理由により残代金三百五十万円の弁済期は右証書差入の当時昭和二十七年十二月末日とする旨の合意があつたものと認めるのが相当である。以上認定に反する成瀬正一の証言は採用しない。而してその後代金の履行期が昭和二十八年一月九日に延期されたことは成立に争のない甲第二十九号証、原告野村邦雄の尋問の結果により認めることができる。被告は、前記百万円については成瀬正一が原告等から買受けた名古屋市北区安井町の土地を移転登記がなされていないのを奇貨として他に売却したことによる損害金三十五万円を控除して六十五万円を提供したが原告野村邦雄、野村ようがこれを拒絶したから右代金債務の不履行はない旨主張し、原告野村邦雄の尋問の結果によれば昭和二十八年一月九日成瀬正一が右の如く主張して金六十五万円を提供したこと、原告野村邦雄、野村ようが成瀬正一の提供した右六十五万円の受領を拒絶したことが認められるが、同供述によれば原告等が成瀬正一に対し名古屋市北区安井町の土地を売却したが代金の支払がなされなかつたため催告の末契約を解除してこれを他に売却したことが認められるから原告野村邦雄、野村ようとしては成瀬正一から右の如き損害金三十五万円を控除されるいわれがないのみならず、原告野村邦雄の尋問の結果によれば右金員の提供のあつたのは代金支払と目的不動産の所有権移転登記手続とをなすため売買当事者が会合した際のことである事実が認められる(前掲甲第九号証によれば登記手続のことを記載した項目を抹消してあるが、このことから直ちに被告等主張のように本件売買契約において目的不動産の登記手続は買主の請求次第なす約であつたことにはならない。却つて証人加納賢之助、原告野村邦雄の尋問の結果によると、本件売買契約においては代金支払と引換に所有権移転登記手続をなすべく定められたことが認められる。これに反する証人成瀬正一の証言は採用しない。)から原告野村邦雄、野村ようが代金四百五十万円全額の提供を要求して内金六十五万円の受領を拒絶したのは寧ろ当然というべきであつて売主に受領遅滞ありとは到底謂いえないところである。

被告等は本件契約は定期行為ではないから催告なくてなされた契約解除は無効であると抗争しているが本件売買契約がその性質上一定の日時又は一定の期間内に履行しなければ契約をした目的を達することができない所謂定期行為となすことが出来ないこと被告等主張の通りであるから野村よう及び原告野村邦雄が右訴外会社の代金債務の不履行を理由として契約を解除するには、先ず相当の期間を定めて催告した上右催告期間内に履行がなされなかつた場合に限りこれをなすことができるものと謂わなければならない。然しながら、昭和二十八年一月九日原告野村邦雄及野村ようが本件不動産の所有権移転登記に必要な書類を成瀬正一に騙取され同月十二日成瀬正一が擅に所有権移転登記手続を済ませたことは後記認定の通りであつて、成立に争のない甲第三十号証、第三十一号証の一、二、乙第三号証、証人林兵の証言、原告野村邦雄の尋問の結果を綜合すれば、成瀬正一(訴外揖斐川木履株式会社の代理人である)が原告野村邦雄を欺きつつ巧妙に所有権移転登記手続を済ませた前後を通じ同人等の度重なる代金支払の要求に種々口実を設けて支払を遷延し何ら誠意ある態度を示さなかつた事実が認められるから、原告野村邦雄、野村ようのなした右代金支払の要求は契約解除の前提としての有効なる催告に該当するものと謂うべく、原告等主張の契約解除は有効のものと謂わねばならない。

然らば右契約解除と同時に本件不動産の所有権は売主たる野村よう、原告野村邦雄に復帰したものと認むべきである。

被告は、契約解除による物権の復帰については民法第百七十七条の適用があり前認定の契約解除後に第一目録記載の不動産については登記簿上の所有者揖斐川木履株式会社から被告成瀬てるゑに、第二目録記載の不動産については登記簿上の所有者成瀬嘉征から被告揖斐木工株式会社にいずれも移転登記がなされているから右各不動産については最早被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社を所有者として取扱うべきであり原告等を所有者として取扱うべきでないと主張し、契約解除による物権の復帰については民法第百七十七条の適用があることは被告等主張の通りであり、第一、二目録記載の物件の滞納処分による差押当時の所有名義人が夫々被告等主張の如く揖斐川木履株式会社及成瀬嘉征となつていたこと、その後被告等主張の如く揖斐木工株式会社及被告成瀬てるゑに移転登記せられたことは当事者間に争がないがもともと民法第百七十七条の規定は売買契約解除による物権復帰の場合にあつては不動産の買主が有効に登記を取得した後契約が解除せられた場合に限り適用せられるべきものであつて不動産の買主の取得登記が何らかの理由により無効である場合にありてはかりに契約解除後に買主から不動産を譲受けその所有権取得登記を済ませた第三者があるとしても右の取得登記も亦無効であり当然抹消せらるべきものであるから民法第百七十七条の適用なく契約解除により所有権が復帰した不動産の売主は当然右所有権復帰を以て第三者に対抗し得るものといわねばならない。

而して昭和二十七年六月十二日第二目録記載の不動産の所有者原告野村邦雄が右不動産を、第一目録記載の不動産の所有者野村ようが右不動産を、訴外揖斐川木履株式会社に対し、代金は合計四百五十万円とし、登記は代金支払と引換になす約で売渡したことは前認定の通りであつて、成立に争のない甲第四乃至八号証同第二十七号証証人加納賢之助、林兵、鈴木茂の各証言、原告野村邦雄の尋問の結果を綜合すれば、昭和二十八年一月九日原告野村邦雄(野村ようの代理人でもある)と訴外揖斐川木履株式会社の代理人成瀬正一及三間稔とが前記売買代金の支払と目的不動産の所有権移転登記手続とをなすため名古屋市東区葵町司法書士加納賢之助方に会合したが成瀬正一と三間稔とは事前に原告野村邦雄から登記に必要な書類を騙取して代金を全額支払わない前に所有権移転登記をしようと相談してあつたため原告野村邦雄がかねて同司法書士に作成を依頼してあつた所有権移転登記手続に必要な一切の書類を受領したところ言葉巧みに原告野村邦雄を同市中区新栄町の栄楽亭へ誘い込みその二階で成瀬正一が「銀行員が階下に来ているから代金は必ず渡す、それについては売買契約書、印鑑証明、委任状など移転登記に関する書類全部がもし間違つているといけないから下にいる銀行員にこれでよいかどうか見て貰つてくるから暫く貸してくれ」といつて原告野村邦雄から所有権移転登記に必要な売買契約書、印鑑証明、野村よう及原告野村邦雄名義の委任状等を三間稔に交付せしめてこれらのものを騙取したことその後同月十二日成瀬正一が右騙取した書類を利用して第一目録記載の不動産については揖斐川木履株式会社、第二目録記載の建物については成瀬嘉征に夫々前記売買を原因として移転登記手続がなされたこと、従つて右登記はいずれも登記義務者たる原告野村邦雄及野村ようが全然関知せずその意に反してなされたことを認めることが出来る。従つて右登記は無権代理行為に基く無効のものというの外なく従つて之に依拠してなされた前記被告揖斐木工株式会社、被告成瀬てるゑの登記も亦無効のものといわなければならない。

被告等は売買契約は有効に存在しその代金も決済され所有権は成瀬正一に移転したのだから有効に移転登記をなし得る旨抗争しているが右は売買契約の有効無効の関係なく登記手続自体に存する瑕疵を問題とするものであるから被告等の右主張はその理由がない。

被告は、野村よう及原告野村邦雄が昭和二十八年一月十六日成瀬正一のなした前認定のような無権代理行為を追認したから成瀬正一のなした登記申請行為の瑕疵が治癒されて右登記が有効のものであると主張し、成立に争のない乙第三号証、丙第二十二号証、証人成瀬正一の証言、原告野村邦雄の尋問の結果を綜合すると、昭和二十八年一月十六日原告野村邦雄及野村ようが成瀬正一に対し、成瀬正一は同人が勝手になした前記登記の登記書類を大垣共立銀行に預けて第一、第二目録記載の不動産を処分しないこと、売買代金四百五十万円は昭和二十八年一月二十日に四百万円、残金五十万円は双方協議の上支払う旨の覚書(乙第三号証)を呈示してその承諾を求めたが成瀬正一がこれに応じなかつたこと、その後同月十八日に至り原告野村邦雄及野村ようが訴外揖斐川木履株式会社及成瀬正一に対し、先に売却した第一、第二目録記載の不動産中土地の坪数が登記面と売買契約坪数と相違しているから後日登記面を訂正する際は委任状を差出すこと、追加登記には責任を持つこと等を記載した誓約書(丙第二十二号証)を差入れたことが認められるから、被告等主張のように原告野村邦雄及野村ようは同月十八日に至り成瀬正一のなした登記申請行為(無権代理行為)を追認したことが窺われるが、原告野村邦雄の尋問の結果によると、右誓約書を差入れた際同月二十日に成瀬正一から売買代金中四百万円が支払われることに当事者間で合意が成立したこと並原告野村邦雄、及野村ようの前認定のような無権代理行為の追認は同月二十日に成瀬正一から売買代金中金四百万円が支払われることを条件としてなされたものであることを認めることが出来る。しかして同日に至るも成瀬正一から右金四百万円の支払がなされなかつたことは証人成瀬正一の証言によるもこれを認めることができるから原告野村邦雄及野村ようの右追認は条件の不成就により効力を生じなかつたものということができる。従つて成瀬正一のなした登記が有効のものであるとなす被告の主張はその理由がない。

以上詳述したような次第で本件の場合には民法第百七十七条の適用なく野村よう及原告野村邦雄は夫々第一第二目録記載の不動産を契約解除により取消したものでありかりに被告等主張のように揖斐川木履株式会社から被告成瀬てるゑに対し第一目録記載の不動産についての権利変動がなされたとしてもこれを以て野村ように対抗できないし、又成瀬嘉征から被告揖斐木工株式会社に対し第二目録記載の不動産についての権利変動がなされたとしてもこれを以て原告野村邦雄に対抗できないものと謂わなければならない。(この理は右各権利変動が国税徴収法による公売処分に基くものであつても同一である、蓋し公売処分による権利取得は承継取得と解すべきだからである)。

而して昭和二十八年八月三十一日原告野村栄一が第一目録記載の土地を、原告野村露子が同目録記載の家屋を、野村ようの死亡により各遺贈せられたことは成立に争のない甲第十三、第十七号証によりこれを認めることができる。(もつとも甲第十七号証遺言書によれば、原告野村露子に遺贈されているのは第一目録記載の家屋中便所一個を除外されているが、その記載の形式に照して判断すれば遺言者野村ようの真意は名古屋市中村区米屋町二番の四十九家屋番号八十六番の家屋を遺贈の目的としたことが推認できるから、原告野村露子に対する遺贈の効力は第一目録記載の家屋全部について生じたものというべきである)。

然らば第一目録記載の土地は原告野村栄一、同目録記載の家屋は原告野村露子、第二目録記載の不動産は原告野村邦雄の各所有であることが明らかであるから、原告野村栄一が第一目録記載の土地につき、原告野村露子が同目録記載の家屋につき、各その所有権に基き被告成瀬てるゑに対し揖斐川木履株式会社との間になされた移転登記の抹消登記手続を求める請求並に原告野村邦雄が第二目録記載の不動産につきその所有権に基き被告揖斐木工株式会社に対し成瀬嘉征との間になされた所有権移転登記の抹消登記手続を求める請求は、いずれも正当であるから、これを認容すべきものである。

第二、被告岐阜労働基準局長に対する請求について判断する。

原告野村栄一、同野村露子の所有権確認を求める点については、右訴は権利主体たる国を被告とすべきものであり国の機関たる被告には当事者適格がないこと被告主張の通りであるから之を棄却すべきものである。

そこで被告が昭和二十八年四月二十七日訴外揖斐川木履株式会社に対する労災保険料の滞納処分として第一目録記載の不動産につきなした公売処分の無効確認を求める点について検討する。

昭和二十七年六月十二日第一目録記載の不動産の元所有者野村ようが右不動産を訴外揖斐川木履株式会社に対し売却し右不動産につき昭和二十八年一月十二日右訴外会社に所有権移転登記がなされたこと、被告が同年四月二十日右訴外会社の労災保険料の滞納処分として右不動産を差押え同月二十七日成瀬てるゑを競落人とする公売処分をなし同年五月十五日その旨の所有権移転登記がなされたことは当事者間に争がない、而して原告野村露子同野村栄一は右揖斐川木履株式会社との売買契約を適法に解除した野村ようから夫々その主張の如く右不動産中家屋並土地の遺贈を受けたりとして右公売処分の無効確認を求めるのであるが元来野村ようは右公売処分については第三者の関係にあるのみならず同人より権利を承継した右原告両名は競落人たる成瀬てるゑを相手取つて公売の無効を理由として所有権確認又は移転登記の抹消登記手続を求むれば足り今更過去の事実となつた公売処分の無効確認を求める何等の利益がないものと認むべきこと被告主張の通りであるから被告に対する請求は爾余の争点について判断するまでもなく失当といわねばならない。

第三、被告大垣市に対する請求について判断する。

昭和二十八年一月十二日第二目録記載の不動産につき登記権利者を成瀬嘉征、登記義務者を原告野村邦雄、登記原因を売買とする所有権移転登記がなされたこと、被告が同年五月二日成瀬嘉征の市税滞納処分として右不動産を差押え同月二十六日揖斐木工株式会社を競落人とする公売処分をなしたことは当事者間に争がなく、昭和二十七年六月十二日右不動産の所有者原告野村邦雄が右不動産を訴外揖斐川木履株式会社に対し売却したが昭和二十八年一月二十四日に至り右訴外会社の代金債務不履行により右売買契約を解除し右不動産の所有権が原告野村邦雄に復帰したことは前記「被告成瀬てるゑ、同揖斐木工株式会社に対する請求について」の項において説示した通りである。されば本件第二目録記載の物件は原告野村邦雄の所有であり被告大垣市は之を争つていること弁論の全趣旨に照し明であるから原告野村邦雄の被告に対する所有権確認を求める請求は正当である。然しながら同原告の被告に対する公売処分の無効確認を求める部分は被告岐阜労働基準局長の項において説明したと同様競落人たる揖斐木工株式会社を相手取り公売無効を理由として所有権確認又は移転登記抹消登記手続を求むれば足り公売無効確認を求める何等の利益がないものといわねばならない。

第四、以上の理由により原告野村栄一、同野村露子の被告労働基準局長に対する請求及原告野村邦雄の被告大垣市に対する公売処分の無効確認を求める部分は失当であるから之を棄却しその余の原告等の請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 奥村義雄 小淵連 川口公隆)

(別紙省略)

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